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自殺の要因分析
(作成者:統計数理研究所 椿 広計、伏木忠義、久保田貴文)
報告書の概要と活用方法について
 これまでに、全国の都道府県を単位とした地域相関研究(個人でなく、地域を分析単位とした研究)、またはある特定の都道府県内の市区町村を単位とした地域相関研究は数多く行われてきました。しかしながら、自殺の関連要因については同一の都道府県内でも地域差がみられることから、全国を対象とした地域相関研究においても、より詳細な地域を単位として分析を行う必要があります。
 そこで、本報告書では、自殺行動との関連が国内外の先行研究で示唆され、かつ市区町村レベルで利用可能な統計資料が提供されている社会経済的要因、人口学的要因および地理・気象学的要因について、地域の自殺死亡指標との関連を検討いたしました。
 本報告では、ポアソン回帰モデルという統計手法を用いています。ポアソン回帰モデルは、自殺のように発生率の低い事象と関連する要因を明らかにする場合に用いられる統計手法です。
 年齢により3つのグループに分類したサブグループ解析の結果、概ね以下のような点が明らかとなりました。
気象に関連する要因では、平均気温や日照時間は自殺死亡数と負の関連が(すなわち、平均気温に関して言えば、平均気温が高い(低い)と自殺死亡数は少ない(多い)という関連が)、降水量は自殺死亡数と正の関連がみられた。また、このような傾向は40歳以上の層でより強いことがうかがえた。
人口学的要因については、年齢層に関わらず、可住地人口密度は自殺死亡と負の関連が確認された。また、20〜39歳では地域の死別率と自殺死亡に正の関連が、40〜64歳では未婚・離別・死別のいずれかにより配偶者がいない者の割合と自殺死亡に正の関連がみられた。65歳以上の高齢者では、単身世帯割合と自殺死亡に正の関連が確認された。
社会・経済的要因については、1人当たり所得と自殺死亡に負の関連がみられた。また、第3次産業就業者割合は自殺死亡と負の関連が、完全失業率は自殺死亡と正の関連がうかがわれた。
 ただし、結果の解釈に当たっては、従来の研究のような都道府県または二次医療圏ではなく市区町村というより小さな地域を単位とした研究ではあるものの、地域を単位とした研究である以上、「生態学的誤謬」については注意を要します。生態学的誤謬とは、研究の単位が個人でなく地域(本報告では市区町村)であるため、集団レベルで観察された要因と当該事象(本報告では自殺死亡)との関連が必ずしも個人のレベルで当てはまるとはかぎらないことを言います*1。なお、本研究で検討した様々な要因と自殺死亡との間に想定される複雑な因果モデルに関する分析については今後の重要な検討課題です。
*1 柳川 洋、他(編). 地域保健活動のための疫学. 東京:(財)日本公衆衛生協会, 2000.


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